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 ヒタヒタと
 裸足でで走る足音が闇に響く
 そのすぐ後を、コツリコツリと革靴の音が追いかける
「たすけ、はぁ、ごほっ、たすけ・・・はぁ・・・はぁ!!!」
 半狂乱になりながら、ディレックは走った
 むせ返りながら、嗚咽を漏らしながら
 逃れるために、生きるためにただひたすらに走った
「そろそろ、休みませんかな?私も少々飽きてきましたぞ?」
 老紳士の言葉が、彼をさらに追い込んだ
 逃げなければ、どこでも良い
 生き伸びられるところへ
 そして、目に入った部屋の明かりの中に、反射的に飛び込んだ
「ぬ!?」
しまった
 そういった表情を浮かべ
 老紳士が部屋に走り寄る
 だが、遅かった、次の瞬間青年の手によって部屋の扉は堅く閉ざされた。
「この部屋は確か・・・・・」

 なんとか
 なんとか助かった
 扉を背に、静かにディレックはその場にへタレこんだ
 こうしている場合じゃない
 早くこの場を離れなければ、頭を振り静かに立ち上がる
 そして、気がついた
 この部屋は
 一面に壁
 肉の壁が広がっている
 ドクンドクンと、まるで心臓のように脈を打つ肉の壁
 そのあちこちには、目の玉の様な物が埋め込まれている
 奇妙な部屋だ、まるで臓物の中に閉じ込められた、そんな錯覚を覚えるほどに
 刹那、部屋が蠢いた
 すさまじい速さで、大量の触手がディレックの四肢を捕らえる
「う、うわああああああああああああああああああああああああ!?」
 助けて、助けて、助けて!!
 涙を流し、よだれを垂らし、ひたすらに体を動かし抵抗する
 だが、触手は無慈悲に青年を壁にと引きずりこんでいった

 きもちいい
 おしりがきもちいい
 いっぱいいっぱいおしりがみりみりいって
 すごいきもちがいい
「ありゃぁ、こいつぁダメダナァ」
 ぼくをみあげてだれかがなにかをいってる
「あぁ〜肉になっちゃうねこのままだと」
「お前の『手』でひっぺがせねぇか?」
「無理ですな、コレだけ同化が進んでいたら、途中で引きちぎれていますな」
 なにをいってるんだろう
 まあいいや、だってぼくはきもちいいんだ
 あしとかてとかすごいきもちいいんだよ
 おしりからはいったなにかがからだじゅうをぞりぞりしておくちからでてるんだ
 おくちものどのおくもきもちいい
 このままとけてしまうみたいにすごいすごいきもちいい
 ぼくはおにくになるのらしい
 おにくになったらきもちいいのかな
 まあいいやきもいいいんだから
 そういえばぼくはいったいだれだっけ?

 魔族達が部屋を後にした刹那
 ディレックという青年は
 ゆっくりと肉と同化し、完全な臓物にと姿を変えていった

 中位魔族達が肉体を作るとき媒体となる肉
 それだけではない、魔族が必要とするあらゆる肉を形成する部屋
 それがこの部屋である
 この部屋に入ったが最後二度と日の目を見る事はできない
 最期の部屋である。